2025年4月5日土曜日

「専門家なのに、なぜ予測を外すのか?」~未来予測と特許戦略のお話~

 大学生の頃の思い出話から始めさせてください。1987年ごろ、私が国際関係論の講義を取ったときのこと。

教室に入ってきた先生の第一声が、今でも耳に残っています。

「君たちは国際関係論というと、いろんな国の関係を勉強すると思っているだろうが、違う。世界には米ソの2つの超大国しかない。この2国の関係を分析するのが国際関係論なんだ」

その先生はアメリカで研究してきた、自信満々の若手研究者。当時の私は「さすが専門家!自分の浅はかな考えが恥ずかしい...」なんて思ったものです。

そして歴史は意外な展開を見せる

ところが、その数年後...。

ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦は解体され、「2極体制」はあっさりと歴史の彼方へ消えていきました。

アメリカの一流大学で博士号を取った、その道のエキスパートだった先生でさえ、ソ連崩壊という大きな変化を予測できなかったんです。

これって、いったい何なんでしょう?

優秀だからこそ陥る罠

私なりに考えてみたのですが、専門家が予測を外す理由はこんなところにあるのではないかと思います。

優秀な人ほど分析能力が高い。だから現状分析は素晴らしくできるんです。そして、「未来は現状分析の延長線上にある」と考えがち。

でも、実際の未来って、そんな単純なものではないんですよね。時には予想もしなかった方向に突然曲がったりする。

未来は「確率」で考えるべきもの

個人的には、未来はこう考えた方がいいと思います:

「あらゆる可能性が、それぞれ一定の確率で存在している」

先ほどの例で言えば:

  • 米ソ2極体制が続く確率:高い(当時はそう見えた)
  • ソ連が崩壊する確率:低い(でも、ゼロではなかった)

専門家の本当の役割は、「これが起きる!」と断言することではなく、様々なシナリオを想定して、それぞれに対応策を考えておくことなんじゃないでしょうか。

知財戦略にも同じことが言える

この考え方は特許出願にも当てはまります。

例えば、ある技術分野だけに特許を集中させるのではなく、関連する分野にも幅広く出願しておく。そうすれば、予想外の方向に市場が動いても、ある程度対応できるわけです。

特許というのは「未来の事業領域を確保する」ためのもの。だからこそ、予想が外れた場合の保険としても機能させる戦略が重要なんです。

「私の予測は当たっていた」という人を信じないで

余談ですが、時々こんなことを言う人がいます。

「私はこうなると3年前から予測していた」 「私の分析では、この結果は明らかだった」

こういう「後出しジャンケン」的な発言、実はほとんど詐欺と同じです。未来は確率的なものである以上、どんな専門家でも100%の確率で予測することはできません。

結局のところ

専門家の本当の価値は、「未来を言い当てること」ではなく、「様々な可能性に備えておくこと」なんだと思います。

知財戦略も同じ。一つの予測だけに賭けるのではなく、様々なシナリオに対応できるよう、幅広く布石を打っておく。

それが、不確実な未来に立ち向かうための賢い戦略なのではないでしょうか。

2025年3月29日土曜日

お金の使い方が変わる時代に~インフレ時代の企業戦略と知財戦略~

最近、スーパーに行くたびに「あれ?また値上がりした?」と驚くことが増えましたよね。我が家も家計が火の車です...(涙)

この状況、ご存じの通り「インフレ」と呼ばれるものです。今日は、このインフレが企業の戦略、特に知財戦略にどんな影響を与えるのか、ちょっと考えてみたいと思います。 

インフレとデフレ、超シンプル解説

まず、基本中の基本から!

デフレってこんな感じ:

  • 現金の価値が上がっていく
  • 今ある100万円が、5年後にはもっと価値を持つ
  • モノの値段が下がる傾向

インフレはこんな感じ:

  • 現金の価値が下がっていく
  • 今ある100万円が、5年後には価値が減っている
  • モノの値段が上がる傾向

実は日本は約30年間、デフレの時代が続いていました。それが今、大きく変わろうとしているんです。

デフレ時代の「正解」だった考え方

デフレの時代、企業にとっての「正解」はこんな感じでした:

😎 お金を使わない 「せっかくお金があるんだから、使わずに持っておこう。だって、時間が経つほど価値が上がるんだもの!」

💼 リストラこそ王道 「人件費を削って、支出を減らそう。現金を守ることが大事!」

💰 借金は悪 「借りたお金は、返すときにはもっと価値が上がっているから、借金は避けよう」

今の経営者さんたちの多くは、このデフレの30年を生き抜いてきた方々。だから、この考え方が「当たり前」になっているんですよね。

でも、インフレ時代は180度違う!

ところが、インフレになると、この「正解」が一気にひっくり返ります。

🛍️ お金は使うもの 「現金の価値はどんどん下がるから、価値のある資産に変えておこう!」

📈 積極投資が王道 「お金を寝かせておくより、事業に投資したほうが将来リターンが大きい」

💸 賢い借金は味方 「今借りたお金は、将来的には価値が下がるから、返すのが楽になる。今のうちに投資のための資金を調達しよう」

知財戦略も変わります!

さて、ここからが知財の話。

デフレ時代の知財戦略

  • 特許出願を減らす(コスト削減)
  • 特許ポートフォリオを小さく、スリムに

インフレ時代の知財戦略

  • 特許出願を増やす(将来の資産づくり)
  • 特許ポートフォリオを拡大、強化する

「でも、それって弁理士さんが出願料稼ぎたいだけでは?」

なんて思う方もいるかもしれませんね。でも、10年後に振り返ってみれば、どちらが正解だったか、ハッキリわかるはずです。

活気ある未来のために

個人的には、インフレ時代の「積極投資型」の方が、社会に活気が生まれると思うんです。

デフレ時代って、「何もしない」「小さく縮める」が正解だったから、なんだか息苦しかったですよね。会社も個人も、どこか停滞感がありました。

これからのインフレ時代は、ポジティブな投資や挑戦が報われる時代。

企業も個人も、「お金の使い方」に対する考え方を切り替えていく必要があるんじゃないでしょうか。知財戦略も例外ではなく、むしろ最前線かもしれません。

みなさんも、この変化に気づいて、新しい時代の波に乗りましょう!

2025年3月22日土曜日

中央研究所はいらないの?

 

こんにちは!今日は企業の研究開発についての大切なお話です。最近「イノベーション」という言葉をよく耳にしますが、その源泉となる研究開発の現場はどうなっているのでしょうか?

昔、「中央研究所なんてコスパ悪いから廃止しちゃおう!必要な技術は買ってくればいいじゃん」と考えた企業がありました。実際、日本の大手企業でも研究所を縮小したり、統廃合したりする動きが増えていますよね。

確かに、研究所を維持しても成果がすぐに出ないし、お金もかかるし...周りを見渡せば優れた技術がすでに世の中にある状況だと、そう思っちゃうのも無理ないかも。四半期ごとの決算や短期的な業績を求められる現代のビジネス環境では、なおさらその誘惑は強いと思います。

でも、特にメーカーさんがこんな判断をすると、だんだん先細りになっちゃうと思うんです。理由は3つ!それぞれ掘り下げて考えてみましょう。

なぜ研究開発能力は必要なの?

  1. 技術を買おうとしても高額になる
    「お金さえ出せば技術は買える」と思いがちですが、開発費用がかかっているから簡単には売ってくれません。さらに、「この会社は自分で研究開発できないんだな」と見られると、足元を見られて高い金額を請求されるかも😓 例えば、ある自動車メーカーが電気自動車の基幹技術を持っていなかったため、他社から高額なライセンス料を支払って導入することになり、結果的に製品の価格競争力が失われてしまったケースがあります。自前で開発していれば、そのコストを10年以上かけて回収できたかもしれないのに、短期間で支払わなければならなくなったんですね。
  2. そもそも売ってくれないこともある
    良い技術ほど、開発した会社は「これは自社だけで使おう!」と考えます。だって独占した方が儲かりますからね。そうなると、その技術が必要なビジネスはあきらめるしかなくなります。 スマートフォン業界を見てみると、画面技術や半導体技術など、最先端の技術を持つ企業は自社製品に優先的に使い、他社には古い世代の技術しか提供しないことがよくあります。結果的に、技術を持たない企業は常に一歩遅れた製品しか出せなくなるんですよね。
  3. 欲しい技術がまだ市場に存在しないことも
    「買おう!」と思っても、まだ誰も開発していない技術だったらどうしますか?誰かが開発するのをただ待つしかなくなり、新しい事業に参入するタイミングも他人任せになっちゃいます。 例えば、カーボンニュートラルや循環型社会に対応する新素材の開発。これから需要が高まる分野ですが、まだ誰も完全な解決策を持っていません。こういった未来の市場で勝負するには、自分たちで技術を作り出す力が必須なんです。

このように考えると、「技術は買えばいい」という考え方には大きな落とし穴があるんですね。短期的にはコスト削減になっても、長期的には会社の競争力を弱めてしまうかもしれません。

なぜこういう考え方が生まれるの?

これって、分析が得意な人が経営トップになると起きやすい問題かなと思います。私たちの周りにもこういうタイプの上司、いませんか?

分析の仕事って、確度の高い作業を99回積み重ねて1つの結論を出すような感じで、無駄が少なくコスパが見えやすいんですよね。数字で成果を示しやすく、「この施策でコストが15%削減できました」と報告できるから評価もされやすい。

一方で、発想や創造の仕事は、99回失敗して1回成功するような感じ。分析タイプの経営者からすると「この99回の失敗って無駄じゃない?」と思えちゃうんです。研究開発の価値を数字で示すのは難しいですよね。「今は成果が出ていないけど、10年後に花開くかもしれない」なんて説明では、短期的な成果を求める株主も納得しにくいでしょう。

だから「失敗にお金を使うくらいなら、できあがった技術を買った方がいい」という考えになりがち。でも、そうすると新技術が生まれず、高いお金で技術を導入することになって、結局は会社の収益が徐々に減っていく...

発想型の人がトップに立てばいいんですけど、残念ながら発想型の人って出世しにくいんですよね😢 企業文化として「失敗を許容する」「長期的な視点を持つ」という価値観が根付いていないと、なかなか難しい問題です。

成功している企業の研究開発の特徴

でも、世界を見渡すと研究開発に力を入れて成功している企業もたくさんありますよね。そういった企業には、どんな共通点があるのでしょうか?

  1. 長期的な視点を持っている
    四半期ごとの成果にこだわりすぎず、5年、10年単位の成果を期待している企業は強いです。アップルやグーグルといった企業は、すぐに収益にならない技術にも投資し続けています。
  2. 失敗を許容する文化がある
    「失敗は成功のもと」という言葉がありますが、本当にそう考えている企業は、研究者の挑戦を応援します。3Mは「15%ルール」といって、勤務時間の15%を自分の好きな研究に使っていいという文化があります。
  3. 研究と事業の橋渡しをする仕組みがある
    研究所と事業部の間の「死の谷」を乗り越える仕組みを持っている企業は強いです。研究だけでなく、それを製品化するプロセスまでしっかり考えているんですね。

まとめ

研究所を「コスパが悪い」と切り捨てるのは短期的な見方。長い目で見ると、自社の研究開発能力は会社の未来を支える大切な力なんです。99回の失敗も、実は次の成功への大切なステップ。研究所を大事にする企業文化が、これからの時代を生き抜くカギかもしれませんね!

2025年3月18日火曜日

特許取得の件(特許7650476:分類処理プログラム及び方法)

この度、生成AI関連の特許を取得しました。

昨年の夏の終わりに出願をし早期審査をかけ、この2025年3月14日に設定登録されました。

登録番号は、特許第7650476号です。

特許化の目的としては

1.私が考案した生成AI(LLM)による分類生成方法を権利化する

2.生成AI(LLM)関連の特許明細書作成テクニックを実際の出願を通じて確認する

ことがあります。今回特許されたことにより目的は達成されました。

今回の特許取得により、私の生成AIによる分類生成方法の独自性が認められたことは非常に意義深いものです。特に、昨今の生成AI技術の急速な発展において、この分野での知的財産権の確立は重要な一歩となりました。

特許出願から登録までの過程では、AIの発明に関する審査基準の理解や、技術的効果の明確な説明方法など、多くの知見を得ることができました。これらの経験は今後の研究開発や特許戦略にも活かせるものと考えています。

今後はこの特許技術をベースに、実用化に向けた開発を進めるとともに、学術的な面からも研究成果を発表していく予定です。また、この分類生成方法を活用した新しいAIアプリケーションの可能性も模索していきたいと思います。

最後に、この特許取得にあたりご支援いただいた関係者の皆様に心より感謝申し上げます。これを機に、さらなる技術革新への挑戦を続けていく所存です。

・J-platpatのリンクはこちらです。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/PU/JP-2025-010130/11/ja

・特許証はこちらです。


・請求項の記載は以下となっています。

【書類名】特許請求の範囲
  【請求項1】
 コンピュータに、
 分類対象の内容を記述した複数の分類対象文章を、一つの入力文章に結合する処理と、
 大規模言語モデル、前記入力文章と、前記入力文章から、分類の名称、又は、分類の名称と分類の説明、を含む分類説明文章を生成するための指示情報と、を入力し、前記大規模言語モデルから、前記分類説明文章を出力として得る処理と、を実行させる分類処理プログラム。
  【請求項2】
 前記大規模言語モデルを用いて、前記複数の分類対象文章を要約する処理と、
 前記複数の分類対象文章の要約を、前記一つの入力文章に結合する処理と、
をさらに実行させる請求項1に記載の分類処理プログラム。
  【請求項3】
 コンピュータが、
 分類対象の内容を記述した複数の分類対象文章を、一つの入力文章に結合する処理と、
 大規模言語モデル、前記入力文章と、前記入力文章から、分類の名称、又は、分類の名称と分類の説明、を含む分類説明文章を生成するための指示情報と、を入力し、前記大規模言語モデルから、前記分類説明文章を出力として得る処理と、を実行する分類処理方法。


・発明の概要は以下です。

 本願発明によれば、複数の分類対象文章から分類名やその説明を含む分類説明文章を自動的に生成できるため、従来難易度が高かった分類作成を省力化できます。この技術的効果は、明細書の実施形態で説明したように、特許データ、論文、アンケート、ユーザーレビューなど、さまざまな種類のテキストデータに適用可能です。

 また、本願発明の分類説明文章は、内容に応じて解決手段、課題、ニーズ、品質、効果、用途、便益など、さまざまな観点での分類基準として機能し得ます。このように、本願発明は、分類対象文章の内容や分類の観点を限定することなく、幅広い分野で利用可能な汎用的な分類生成手段を提供します。

 以上のように、本願発明は、発明の課題である分類の生成処理を、明確に定義された構成要素と処理手順によって実現しており、さらに広範な技術分野への応用可能性を有する、産業上有用な発明です。


「専門家なのに、なぜ予測を外すのか?」~未来予測と特許戦略のお話~

 大学生の頃の思い出話から始めさせてください。1987年ごろ、私が国際関係論の講義を取ったときのこと。 教室に入ってきた先生の第一声が、今でも耳に残っています。 「君たちは国際関係論というと、いろんな国の関係を勉強すると思っているだろうが、違う。世界には米ソの2つの超大国しか...