大学生の頃の思い出話から始めさせてください。1987年ごろ、私が国際関係論の講義を取ったときのこと。
教室に入ってきた先生の第一声が、今でも耳に残っています。
「君たちは国際関係論というと、いろんな国の関係を勉強すると思っているだろうが、違う。世界には米ソの2つの超大国しかない。この2国の関係を分析するのが国際関係論なんだ」
その先生はアメリカで研究してきた、自信満々の若手研究者。当時の私は「さすが専門家!自分の浅はかな考えが恥ずかしい...」なんて思ったものです。
そして歴史は意外な展開を見せる
ところが、その数年後...。
ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦は解体され、「2極体制」はあっさりと歴史の彼方へ消えていきました。
アメリカの一流大学で博士号を取った、その道のエキスパートだった先生でさえ、ソ連崩壊という大きな変化を予測できなかったんです。
これって、いったい何なんでしょう?
優秀だからこそ陥る罠
私なりに考えてみたのですが、専門家が予測を外す理由はこんなところにあるのではないかと思います。
優秀な人ほど分析能力が高い。だから現状分析は素晴らしくできるんです。そして、「未来は現状分析の延長線上にある」と考えがち。
でも、実際の未来って、そんな単純なものではないんですよね。時には予想もしなかった方向に突然曲がったりする。
未来は「確率」で考えるべきもの
個人的には、未来はこう考えた方がいいと思います:
「あらゆる可能性が、それぞれ一定の確率で存在している」
先ほどの例で言えば:
- 米ソ2極体制が続く確率:高い(当時はそう見えた)
- ソ連が崩壊する確率:低い(でも、ゼロではなかった)
専門家の本当の役割は、「これが起きる!」と断言することではなく、様々なシナリオを想定して、それぞれに対応策を考えておくことなんじゃないでしょうか。
知財戦略にも同じことが言える
この考え方は特許出願にも当てはまります。
例えば、ある技術分野だけに特許を集中させるのではなく、関連する分野にも幅広く出願しておく。そうすれば、予想外の方向に市場が動いても、ある程度対応できるわけです。
特許というのは「未来の事業領域を確保する」ためのもの。だからこそ、予想が外れた場合の保険としても機能させる戦略が重要なんです。
「私の予測は当たっていた」という人を信じないで
余談ですが、時々こんなことを言う人がいます。
「私はこうなると3年前から予測していた」 「私の分析では、この結果は明らかだった」
こういう「後出しジャンケン」的な発言、実はほとんど詐欺と同じです。未来は確率的なものである以上、どんな専門家でも100%の確率で予測することはできません。
結局のところ
専門家の本当の価値は、「未来を言い当てること」ではなく、「様々な可能性に備えておくこと」なんだと思います。
知財戦略も同じ。一つの予測だけに賭けるのではなく、様々なシナリオに対応できるよう、幅広く布石を打っておく。
それが、不確実な未来に立ち向かうための賢い戦略なのではないでしょうか。